福島諭「記譜、そして、呼吸する時間」展
2022年7月5日から9月11日にかけて、岐阜県美術館では「IAMAS ARTIST FILE #08」として、福島諭「記譜、そして、呼吸する時間」展が、そして、関連プログラムとして2022年8月28日にコンサート「エレクトロニック ラーガのための室内楽」が開催された。この文章は上記の展覧会とコンサートについての球探足球比分_188比分直播-劲爆体育であり、(1)福島諭について、(2)佐藤慶次郎について、(3)展覧会について、(4)コンサートについての4つの部分から構成されている。

1?1.リアルタイムなコンピュータ処理
1977年6月に新潟で生まれた福島諭は、2002年4月に球探足球比分_188比分直播-劲爆体育(IAMAS)に入学している。自身のウェブサイトに掲載された略歴において、福島は学歴のあとに「2002年よりリアルタイムなコンピューター処理と演奏者との対話的な関係によって成立する作曲作品を発表」※1するようになったと記している。この記述から福島は自身の作家としての起点を、IAMASに入学した2002年にあるとみなしているものと考えられる。さらに2002年に福島はIAMASにおいて、鈴木悦久/飛谷謙介とともにグループ「Mimiz」を結成しており、2004年3月にIAMASを修了した福島は、新潟を拠点に活動を続けていくこととなる。
福島の存在が広く知られるようになったのは、2006年8月から9月にかけてオーストリアのリンツで開催されたメディア?アートのフェスティバル「アルス?エレクトロニカ」のデジタル?ミュージック部門へMimizが入賞したこと、そして、2006年9月に開催された愛知芸術文化センターの主催による第1回の「サウンドパフォーマンス道場」において、福島の「Vocalise for soprano and computer」という作品が第1位に相当する優秀賞を獲得したことに始まるものと思われる。
アルス?エレクトロニカのウェブ?アーカイブ※2において、Mimizはプレイヤー同士がコンピュータだけでコミュニケーションするという独自の方法論に基づくグループであると指摘されている。そして、鈴木と飛谷の演奏する楽器の音は福島の操作するコンピュータによって、カットアップ、分解、音響処理が行われるものの、互いの演奏そのものは耳にすることはできず、結果として出力された音によって、次の演奏が決定されるという意味の解説が残されている。
2005年3月のスタジオ?セッションが収録されたMimizのCD「The God’s works of the principle of living only for the pleasure of the moment」には、鈴木のパーカッションと飛谷のギターというクレジットがある。しかし、この録音において楽器の演奏が前面に押し出される箇所はそれほど多いわけではなく、福島は2014年11月に行われたインタビューにおいても、「特にコンピュータから出力される音響は、舞台空間で演奏された生楽器の音をリアルタイムにサンプリングしたものに限定し、それらを加工出力することで得られる一回性の時間に魅かれてきました」※3と述べている。すなわち、福島の「舞台空間」のための音楽は、あらかじめ録音されたサウンド?ファイルなどを再生するようなスタイルのものではなく、あくまで演奏者による生の演奏を重視していることが分かる。
三輪眞弘は、20世紀以降の世界の作曲家たちによる「生演奏と(註?コンピュータによる)リアルタイム音響処理を前提」※4とした音楽は、全般的に「演奏家の技芸をさらに拡張したり、スペクタクルなものにするような(略)音楽の本質とは異なる、単なる『演出/エフェクト』にしか感じられなかった」※5と発言していた。しかし、福島の作品におけるコンピュータの使用は演奏された音にきらびやかなエフェクトを与えことを目的とするものではなく、三輪は福島の作品について「演奏家の技量を華々しく見せようという意図がまったくない」※6と評している。
福島も自身の作曲について「特にコンピュータの内部で扱うパラメータはとても繊細なため、数値をわずかにずらしながら響の変化の角度を少しずつずらして行くような作業が多くなります。わずかな変化が予想外の方向へ傾いてしまう恐れと常に隣り合わせなのです。見た目には地味ですが、それが精一杯です」※7と説明していた。すなわち、福島の音楽は生身の人間による演奏行為を起点とし、そこにコンピュータによって「少しずつ響きの変化の角度をずらしていく」ことで、不確定的に重層化された状態を特定の空間に現出させるというものであり、その姿勢は現在に至るまで一貫しているものと思われる。
1?2.生命的な存在
新潟を拠点に活動を続ける福島の音楽を、コンサートなどで筆者が体験できる機会はそれほど多くなかったものの、私家版のCD?Rや楽譜の発行はコンスタントに続けられてきた。筆者の確認できた限りでは、2007年に「Happened Ground」「Finishing Mirrors」「the several obbligatos of the sunbaked slash /」という3枚のCD?Rがリリースされており、「Finishing Mirrors」は「ギターの弦を弾きながらMax/MSPによる自作ソフトウェアのパラメータを変化させていく形での演奏」※8を再構成する作品であった。
そして、福島は「the several obbligatos of the sunbaked slash /」の解説において、「これまで音響加工のリアルタイム処理をライブ演奏で長く使用してきましたが、時折到達する新鮮な感覚を再編集してもっと身軽にパッケージングする事はできるのではないかと考えるようになっています」※9と記している。すなわち、こうしたCD?Rのリリースは福島がコンピュータを楽器のように演奏する過程において得た「新鮮な感覚」の記録であり、基本的には他者と完全に共有することが困難な「感覚」を、いかにして伝達させうるのかという試みのようにも思える。
2008年に発表されたCD?R「おともなくうごくもの」と「タタミ カサネ クミナオス」においては、福島の興味の対象に変化が訪れているように感じられる。福島は前者について、「ピアノから発する音を素材にリアルタイム/ノンリアルタイムに処理を加え(略)テイクを重ねるうちにそぎ落ちて整い